ワクチン
#じざショート
「こちらがワクチンに関する説明書になります。」
私は、医師から手渡された説明書に目を通した。もちろん素人である私に難しい化学物質の名前を見せられてもちんぷんかんぷんだ。
「何かご質問や懸念事項などございますか?」
ざっとひととおり目を通した後、特にないです、と答えた。
「それではこちらの同意書の方にサインをお願いします。」
自筆のサインをしながら、ついにこの時が来たんだとうれしく思った。20XX年、突如現れたウイルスは多くの命を奪った。このウイルスはヒト以外にも感染が進み、特に家畜への感染スピードは尋常ではなかった。家畜の流通が絶望的になったことで人類のタンパク質摂取量が大幅に減少。免疫力がさらに低下する一方だった。
もちろん各国は急いでワクチンの開発に挑んだ。しかし、ウイルスの遺伝情報がヒトのものと大変似通っていることなどから研究はなかなか進まず、一向に解決策が生まれないまま世界の人口は4分の3まで減少していた。
しかし、昨年末A国の研究機関によって人類の最後の希望となるワクチンが開発された。そして先日、ようやくこの国でも認可された。人類はついに不治の病に打ち勝ったのだ…!
「それでは少しチクッとしますよー」
針が刺された感覚がした。しかし抜かれた感覚はなかった。意識は一瞬で消えたようだった。人間が世界から苦を取り除けないなら、世界から人間を取り除く、か、。